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京都地方裁判所 昭和46年(わ)737号 判決 1971年12月23日

被告人 大崎福実こと石井福実

昭二四・八・一〇生 自動車運転手

主文

被告人を懲役壱年に処する。

この裁判が確定した日から参年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和四〇年三月肩書本籍地の安芸中学校を卒業後、集団就職で京都市に赴き、約三年間滝野パン店に店員として勤務し、同四三年一〇月ころから、同市北区紫野藤ノ森町にある土源建材株式会社に自動車運転手として雇われていたものであるが、

第一、かねて、顔見知りの氏名不詳者某より、写真欄に写真が貼付してなく、右写真欄を覆うビニールカバーの写真欄上部に位置する接着部分が破れている、兵庫県公安委員会作成名義の笹山照雅に対する普通自動車運転免許証(免許証番号第六三六九一四九〇一一〇-〇二三〇号)を貰い受けていたところ、たまたま、業務上過失傷害罪に問われ運転免許の効力を停止する旨の処分を受けたので、右の貰い受けた免許証を利用して自己に対する免許証を偽造しようと企て、昭和四六年三月一八日ころ、京都市北区紫野東藤ノ森町七番一号清水モト方二階の被告人の居室において、行使の目的で、ほしいままに、右免許証の写真欄に、前示ビニールカバーの破れたところから、自己の写真を挿入し同欄に貼りつけたように定着させて、あたかも、自己が兵庫県公安委員会から免許証の交付を受けたもののように作り出し、もつて、同公安委員会の署名と印章を使用して、その作成名義の普通自動車運転免許証一通(昭和四六年押第一六三号の1)を偽造し、同年四月一九日午前一一時五〇分ころ、同市北区紫野築山町四一番地先路上において、おりから、交通取締中の京都府警察本部交通機動隊勤務巡査林茂樹より運転免許証の呈示を求められるや、同人に対し、右偽造にかかる運転免許証をあたかも真正に成立したもののように装つて呈示して行使し、

第二、同四三年三月二二日、京都府公安委員会から、普通自動車運転免許証の交付を受け、さらに同四六年三月二〇日右免許証の有効期間の更新を受けていたところ、同公安委員会より、同四六年二月二四日から同年七月二三日までの期間(講習を受けて六〇日間短縮)運転免許の効力を停止されていたのにかかわらず、右停止期間中の同年四月一九日午前一一時五〇分ころ、前記路上において、普通貨物自動車(京四り一五四七号)を運転し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示第一の公文書偽造の所為は刑法第一五五条第一項に、同行使の所為は同法第一五八条第一項(第一五五条第一項)に、第二の所為は道路交通法第一一八条第一項第一号、第六四条(第一〇三条第二項)に各該当するが、判示第一の偽造と行使の間には手段結果の関係があるので同法第五四条第一項後段、第一〇条により犯情の重いと認められる偽造公文書行使罪の刑で処断することとし、判示第二の罪の所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法第四五条前段の併合罪なので、同法第四七条本文、第一〇条により重い第一の偽造公文書行使罪の刑に同法第四七条但書の制限内で、法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、情状により同法第二五条第一項を適用して、この裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人は自己の写真を本件運転免許証の写真欄に、同欄を覆うビニールカバーの上部の破れた部分から挿入しただけにすぎず、挿入された写真は容易に右写真欄を移動するような状態であつたから、未だ偽造の域には達していないと主張する。

そこで、本件運転免許証(昭和四六年押第一六三号の1)を検するに、被告人は自己の写真を、単にその写真欄のビニールカバーで覆われた内部に挿入しているだけであつて、これを糊等の接合剤により同欄に固定させたような形跡は見受けられない。しかし、その写真欄は、これを覆うビニールカバーの上部が僅か三・八センチメートル程度横に破れているに止まり、右ビニールカバーは全体的にかなり強く張り詰められているのであるから、その内部に挿入された写真は、同欄に密着している観を呈し、かつ、簡単には内部の写真を取り除きえない状態にあることが認められる。そして、右免許証は、その写真の挿入されている状態に、同免許証が写真を除いてはすべて真正なものとしての形式、内容をそなえていること等を照らし合わせて考察すると、一般人に、免許を受けた者の写真がその写真欄に固定されている真正な公文書(免許証)と信じさせるに十分な形式外観をそなえているものと認められ、したがつて、被告人の前記所為は、偽造行為の概念に含まれるものと解するのが相当である。しかして、被告人の挿入した写真が現実には接合剤等によつて固定されていないため、同欄のビニールカバー内部で、振動等によつてその位置に移動を来たすようなことがあつても、それは本件の場合、右の解釈を左右するに足りない。

なお前示のように、特定人と異なる他人の写真のみをかえたにすぎない場合でも、それによつて、全く別個の新たな証明文書を作り出したことが認められる限り、偽造行為の範疇に属するものと解するに妨げとならない。

弁護人の主張は採用しない。

よつて主文のとおり判決する。

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